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国産材コラム

暮らしの記憶をつなぐ

朴訥の論

建築雑誌のどれを開いてもZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)がページを占める。ZEHとは、エネルギー利用の方法を工夫することで一次エネルギーの消費をゼロに近づけるというもの。国は2020年までに標準的な新築住宅でZEHを実現し、2030年迄に新築住宅の過半数の達成を目標としている。

 

地球温暖化や原発問題など環境を取り巻く様々な状況下で必然的に取り組まれたものと思うが、規定数値をクリアするために設備機器に依存するのはどうだろうか。「家は性能」と捉える風潮にあるが、いたずらに性能競争に走るのも考えものだ。

 

いまだに余震の続く熊本の地震は、近い将来発生すると言われる東南海地震を連想させるのか、耐震を主眼においたリノベーションの相談が増えている。日本建築学会の地震調査の結果に依れば、2000年以降に建った建物にも倒壊が見られ、耐震化が不十分だと指摘している。これを機に耐震基準が強化され、これでもかと過剰な施行が下されなければよいがと思う。総ての結果、重装備になればなる程そのツケはお施主さんに廻ってくる。

 

 

現在、戦前に建てられた家のリノベーション3軒に取り組んでいるが、きっかけは全て地震からである。耐震に不安を抱き、住み勝手も悪いのであれば建て替えた方が良いというのが大方の意見だが、ご家族の状況下や家の行く末を考えれば、あながち建て替えが良いとは言い切れない。

 

3軒の内、2軒の方は90歳を超える母親が同居されている。もう1軒の方は親から受け継いだ住まいに暮らしているが、自分の子供達はそれぞれ所帯を持ち遠方で暮らす為、親の家を住み継ぐことはほぼ無いという。

 

しかし、住いには子育てに始まり、家族が乗り越えてきた大なり小なりの波乱万丈と喜怒哀楽の記憶が詰まっている。棲み継ぐということは暮らしてきた記憶を繋ぐことでもある。リノベーションはその記憶に新たな豊かさを追い求めて行う。

 

襖や障子で仕切られた古民家は取りも直さず現代の暮らしには馴染みにくいもの。それでも尚、リフォームしてまで住み継ぎたいと願うのは、あながちお金だけではないだろう。「住まいは箱ではないんですね。リノベーションで家の内部解体に直面した時、床も壁も柱も一つ一つが愛おしく感じました」は、工事を終えたばかりのお施主さんの言葉。今朝も「家はスマホで買う時代」の文字は踊っているが・・・。

 

(「木族」2016年6月号より)

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